2017年初のコンサートはクレメンス・ハーゲン&河村尚子のデュオ・リサイタル
酉年の2017年、口開けのコンサートは、兵庫県立芸術文化センター小ホールで。
出演者はハーゲン・カルテットの創立メンバーで、ザルツブルグ・モーツァルテウム音楽院でチェロと室内楽の教鞭をとる、クレメンス・ハーゲン氏と、地元兵庫県西宮市出身で、ドイツ・エッセンのフォルクヴァング芸術大学教授として後進の指導に当たっているピアニストの河村尚子氏。
こう書くとなんだか凄い顔ぶれに見えるから不思議だ。
小ホールへの入り口は、いったん2階に上がってから、すり鉢状になった客席を降りる構造になっている。
今日のプログラムは、先ず、シューマン:5つの民族風の小品集、続いて、ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第2番 ト短調。
休憩をはさんで、ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調というもの。
河村さんファンとしては、つい、河村さんが主でハーゲンさんが従のリサイタルだと考えがちだが、このプログラムはどちらかというと、3人の作曲家がそれぞれ贔屓にしているチェリストに献呈するために書いた曲であることがわかる。
だから、今日の主はハーゲンさんであるが、ピアノ譜の方も其々が当代きっての名ピアニストが書いただけあって技巧を凝らしたものだから、河村さんファンとしても十分楽しめるものである。
今日は、RA列2番という、最前列でステージを右横から観る座席に座った。
ピアノの座席の左前にチェロ奏者の椅子が置かれている。
ピアノには3メートル以内という至近距離だったので音響的にはどうか心配していたが、それは杞憂だった。
2年ぶり位の久しぶりに見る河村さんは、心なしかやや細身になり身の熟しにも大人びた雰囲気を漂わせている、
ハーゲンさんはガッチリした体格であるがとても理知的な顔立ちである。
チューニングが終わり、最初のシューマン:5つの民族風の小品集から第1曲「空の空」から演奏が始まった。
ハーゲンさんのチェロは気負いもなくとても知性的かつ暖かみのある音色であり、終始河村さんと演奏で対話をしながら演奏をリードする。
河村さんの演奏は大ホールで聴くよりも遥かに至近距離で聴いているにもかかわらず、耳障りな刺激音がないのが不思議だ。
透明感があって光輝く音色は以前よりも力強い印象を持った。
不思議なのは、シューマンの次に演奏されたベートーベン:チェロ・ソナタを弾いた時には、音色に重厚さが加わったことだ。
これは音楽の構造により合ったピアノの響きが自ずと出てきているのだろう。
それに比べるとチェロという楽器自体は重音による響きの違いだけなので、ハーゲンさんはボウイングで曲のニュアンスを弾き分けているから、ベートーベンでは2回も弓の毛が切れるのが見て取れた。
丁々発止で音楽が絡み合い紡がれていく様を聴いていると体がほてってくるのがわかる。
オーケストラをバックにピアノコンチェルトを演奏する河村さんよりも、このような室内楽を演奏する河村さんの方が、より深い感動を与えてくれる気がする。
休憩時間に水を一杯飲んで火照った身体を冷ましてから始まった、ラフマニノフ:チェロ・ソナタが圧巻だった。
甘く甘美な響きとドラマ性を併せ持つこの4楽章形式の曲を聴くと、大編成のオーケストラ以外にも、この作曲家の才能が余すことなく発揮された名曲だと感銘を受けた。
アンコール曲にはフランク:チェロ・ソナタ イ長調より第1楽章 アレグレット・ベン・モデラートが演奏されたが、一転してフランスらしいエスプリに溢れた演奏も素晴らしい。
こうして4人の作曲家の演奏を聴いて感じたのは、この2人が作曲家の意図を汲み上げ演奏で表現する力量の高さであり、土着的な匂いを微塵も感じさせない都会的で洗練された演奏である。
2人とも音楽大学で教鞭をとるという共通項があるにしても、独奏者としてのキャリアよりも室内楽奏者としてのキャリアの深さがそうさせているのだろうか。
この2人の組み合わせではいずれもライブ録音で、2013年10月プラハでチェコ・フィルとの共演で、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、に、2014年5月のドイツでの演奏にカップリングする形で、ラフマニノフ:チェロ・ソナタの録音があるだけであるが、他の曲も是非録音してほしいものである。
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