音楽

2024/09/15

Accuton社のセラミックツィーター導入記(その 2)


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前回の続きです。

さて、届いたパーツを並べてみると、セラミックツィーターのペアが入ったケースの他には、PARK Audio製のフィルムコンデンサーのペアが4種と、中、小2種類の金メッキされたファストン端子と端子カバーのセットです。

フィルムコンデンサーは容量の小さいものから0.68μF、1.0μF、1.5μF、2.2μFです。

フルレンジのDDDユニットにアドオンでセラミックツィーターを追加するためには、どのクロスオーバー周波数で使用するか、ツィーターのインピーダンスが決まれば、次の公式により求めることが出来ます。

コンデンサー容量決定の為の計算式は「コンデンサ容量=159000/(クロスオーバー周波数×ツィーターのインピーダンス)」となります。

私の導入したセラミックツィーターのインピーダンスは6Ωですし、ユニコーンにアドオンする場合の好ましいクロスオーバー周波数は20kHzだとGRFさんからの先行実験結果があるので、この公式に当てはめると159000÷(20000×6)=1.325μFが計算で導かれました。

これが望ましいコンデンサー容量となりますが、現実にはピッタリ数値が同じコンデンサーは見当たらないので、各種容量のコンデンサーを組み合わせることで計算結果に近い容量を持つコンデンサーを幾つか用意し、後は試聴を繰り返すことで自分の好みに近いものを見つけ出す実験になります。

そこでコンデンサー容量の違いでクロスオーバー周波数がどうなるのかは、上記の計算式に基き「クロスオーバー周波数=159000/(ツィーターのインピーダンス×コンデンサー容量)」となります。

この計算式によれば、最初に届いた4種類のコンデンサーを6Ωのツィーターに繋いだ場合のクロスオーバー周波数は次のようになります。

0.68μFだと38.97≒39kHz、1.0μFだと26.5kHz、1.5μFだと17.67≒18kHz、2.2μFだと12kHzになります。

このクロスオーバー周波数をみて、私の追試からは両端の0.68μFと2.2μFは外してもよかろう?と言う判断にしましたが、残る1.0μFと1.5μFのでも好ましいクロスオーバー周波数からは少し外れているのが気がかりですが、オーディオは数値が絶対ではなく実際に鳴らしてみて聴感で判断することが大事だと思い、早速繋いでテストすることにしました。

十数年ぶりにハンダコテを握り締め老眼で霞む目を見開きながら、2種類2セットのコンデンサー両端に小さなファストン端子を固定する作業は、緊張しましたが不恰好ながらなんとか終了。

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スピーカーケーブルはあまりに重くて硬いものだとセラミックツィーターが転げ落ちては大変なので、細くて軽くて柔らかいベルデン8460を通販サイトの切り売りで購入し、ユニコーンのネットワークボックスにYラグを使って並列接続してキャビネット上のツィーターユニットに繋ぎました。

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Accuton社のセラミックツィーターには、パンチングメタルの前面保護カバーが付いていますが、外形は円筒状で接続用のファストン端子は剥き出しという形状なので、このままポン置きでは転がり易く不安定だと思い、手持ちに有ったバルサ板と檜材の三角棒で簡便なスタンドを製作しました。

さて、コンデンサー容量1.0μFのと1.5μFのとで試聴を繰り返しましたが、結論から言えば、1.0μFのクロスオーバー周波数26.5kHzでは物足りず、1.5μFの18kHzでは付加の効果有りあり過ぎて、ユニコーンのキャラクターをツィーターのキャラクターに置き換わったようになります。

1.5μFのコンデンサーを繋いで聞こえてくる音楽自体それは好ましく感じるところが沢山ありました。

それは、音の細密度表現力が一段と向上することで、楽器それぞれのキャラクターがしっかり聞き分けられるようになることです。

それに、高音域で歪みの感覚をほとんど感じないので音量が上がっても耳障りなことはなく、寧ろ静寂さをより感覚的に感じ取るようになります。

有機ELテレビのネット配信でベルリンフィルの2024〜25年シーズンの幕開けコンサートでペトレンコ指揮のブルックナー5番を視聴すると、ユニコーン単体を鳴らしていたときよりも更に画面の奥にホールの響きが拡散するようになり、また、ユニコーン単体と比較すれば照明の輝度を1段階以上も上げたかのような音の明瞭さと細密さが表現されるようになりました。

ただし、当初から感じたようにツィーター付加の効果が時に過剰に感じる場面もあるので、理論上最適な1.325μFに近似値となるコンデンサー容量を探すことにしました。

手持ちの0.68μFのを2個並列で繋げば0.68+0.68=1.36μFとなり、1.325との差は+0.035となります。

更にPARK Audioのサイトで手頃な容量のが無いか探すと0.33μFのが見つかったので、手持ちの1.0μFのを並列で繋げば1.0+0.33=1.33μFとなり、1.325μFとの差は+0.005μFとなります。

そこで、追試の第2段階としてこの2種類のコンデンサー容量を試聴することとしました。

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通販サイトで購入したコンデンサーを並列接続して追試の準備は万端です。

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追試にあわせてツィータースタンドも硬くて重い黒檀材で製作し直しました。

ユニコーンの綺麗な光沢を持つキャビネットに乗せても傷を付けないよう、底面には使い古したバッグから切り取った皮革を貼り付けています

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そして追試の時がやってきました。

写真は0.68μFのを2個並列接続したもので、このフィルムコンデンサーはPARK Audioのスタンダード(黄色)の上位モデルで、スタンダードモデルとの違いは、2重ケースを使用したPARC独自の制振構造を採用しており、DDDユニットに近接している故に発生する外部からの振動への対策になるきたいから、更にリード線が金メッキ付き銅線なので金メッキのファストン端子との相性もより高いと考えた為です。

それでもコンデンサーの価格は海外のオーディオメーカー製に比べれば極めて安価であり、国産メーカーの安心感もあります。

0.33μFのは手持ちの1.0μFのスタンダード品と組み合わせるので同じ黄色ので統一しました。

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試聴は、現在音楽鑑賞の主な手段となっている、有機ELテレビを使った音楽番組の録画やネット配信のコンサートをAV視聴する事に重きを置いています。

先に結論から言うと、1.36μFと1.33μFの両方共に1.5μFから繋ぎ変えると、やや明る過ぎだと感じたのが適度で自然な照度に下がり、それでいてユニコーン単体と比べると「音の再密度表現力が一段と向上することで、楽器それぞれのキャラクターがしっかり聞き分けられる」と言うセラミックツィーター付加の効果をはっきりと感じることが出来ます。

1.36μFと1.33μFとの差は私には聞き取れませんでしたので、ほぼ差は無いのでは?と感じたので、最終的に高品質なコンデンサーで製作した1.36μFの容量に決定、と結論つけました。

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私は年齢と共に聴力が低下している上に右耳が低音感応型難聴を患っている為、オーディオで聞く音楽だと微細なニュアンスが聞き取り難いのを半ば諦めていましたが、このセラミックツィーターは近くに寄っても音が鳴っているとは感じられないのに、離れて聞くとユニコーン単体では聞き取り難くなるような距離でも、驚くほど明瞭に聞き取ることが出来ます。
それはまるで聴力が回復したかのような感覚であり、これには感動しました。

今回のGRFさんからの連絡を切っ掛けにして、先行実験を追試するかたちでセラミックツィーターを導入した訳ですが、年金生活者にも手が届くコストで今や高嶺の花になってしまったハイエンドスピーカーだけが持っている、最新の歪感の無いハイスピードな高音域を手に入れることがで出来て大満足です。

ユニコーンのDDDユニットに付加しても効果大という事は、往年の名機に付加すれば驚くような現代ハイエンドスピーカーに匹敵する音に変身する可能性を持っているのでは?と感じています。

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今後はツィーターを向ける角度や前後の位置を微調整してスウィートスポットを探そうと思います。

GRFさん、色々ありがとうございました。

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2024/09/09

Accuton社のセラミックツィーター導入記(その 1)


German Physiks社のチタニウム製DDDユニットを搭載したフルレンジ・バックロードホーンシステムのUnicorn Custom (Mk 1)拙宅にやって来たのは、まだ大阪に住んでいた2014年12月のことでした。

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それから10年もの間、先達のGRFさん宅のシステム変遷を参考にして、この唯一無二のスピーカーシステムの使いこなすことに専念してきました。

独自の発音方式を採用したDDDユニットから出てくる音楽は、一言で言えば自然な音色と自然なサウンドステージ。

オーケストラや室内楽のコンサートに足繁く通い、生演奏で受けた感動を自宅でも味わいたいと思い、必要最低限の機器構成でオーディオシステムを構築し、音楽鑑賞に没頭出来る環境を整えてきました。

そして2022年1月に故郷の実家近くへ移住して新たな生活が始まりました。

以前のようにコンサートへ足繁く通うことが出来なくなった代わり、オーディオで音楽鑑賞する重要度が増してきたので、環境整備の為にオーディオ専用電源リビング壁面へのエコカラット施工といった室内楽環境整備をはじめ、磁気フローティング機構内蔵オーディオラック大画面TVなど、幾つかの投資を行って来ましたがスピーカーシステムだけはUnicornのままでここまでやって来たのです。

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ところが今年2024年になってGRF邸に2組目のUnicornが拙宅と同じく大画面テレビで音楽鑑賞出来る部屋に導入された事から大きく動き出しました。

今までのGRF邸では6畳和室にUnicornが設置され真空管アンプで駆動されていたので、拙宅のように大空間のリビングルームで大画面TVと組み合わせたり、デジタルアンプのSD05割で駆動したりとは、機器構成も部屋も違いが大きかったのですが、今度のテレビの部屋では拙宅とほぼ同じ。

それだけにGRF邸での取り組みの一つひとつに目が離せなくなっていたその矢先、夜香さん宅で聞かれたAccuton社の30ミリ口径のダイヤモンドツィーターの衝撃から今回の変化が始まりました。

GRFさんは同じダイヤモンドツィーターを導入しようとオーダーしたものの1年近くも待たなければならない為、在庫の有るダイヤモンドツィーター出現前の最高機種だった同じ30ミリ口径のセラミックツィーターを速攻で導入され、テレビの部屋のUnicornに追加した出音の変化に驚かれたので、同様のシステム構成の拙宅でも効果があるのでは?と連絡をいただきました。

GRFさんのブログによればその驚きの変化とは。

『いきなり、低音楽器が聞こえて、コントラバスの音が浮かび上がります。不思議なことにティンパニーや大太鼓の音がはっきり聞こえて、金管楽器の鮮度が全く違います。位置を動かしていろいろ試しましたが、最初から音の躍動感、鮮度、ホールへの音場感がこれほど変わるとは予想以上でした。』

『ツィーターのある無しですが、これは大きく変わります。ツィーターで高域が変わるのは予想がつくのですが、実際に驚くのは、低音楽器の広がっていく音や打楽器のリアルな音、そして弦楽器の弦の擦れる音ですね。さわさわとした感触が浮かび上がってきます。DDDのユニットは、SD05との組み合わせでは、地味な落ち着いた音色になります。なぜ、この様に変わるのでしょう。本当に不思議です。』

とあります。

直接連絡いただいた時も、その驚きと興奮の熱気が直に伝わって来ましたので、直感的にコレはすごい事になるかも知れないと思いました。

Accuton社のツィーターは世界の名だたるハイエンドスピーカーのツィーターユニットに採用されていますが、中でもダイヤモンドツィーターはその中でも数千万円クラスの極一部に採用されているだけで、夜香さんの導入された単体でもおいそれとは手の出せない価格になるので小生にとって現実的ではありません。

でもセラミックツィーターであれば30ミリ口径の最大クラスでも、ダイヤモンドツイーターに比べれば年金生活者にも手が出せる金額なので、GRFさんにお願いして再オーダーするユニットに拙宅用のを追加していただきました。

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オーダーから数日後にはGRF邸に届き、ツィーターの低域カットオフ用のフィルムコンデンサーや接続用のファストン端子などのパーツも揃えていただき、後はスピーカーケーブルを用意して繋いでテストしてね、という状態で拙宅にもAccuton社30ミリ口径のセラミックツィーター、インピーダンス6Ωのユニットペア(C3-6-358)が到着しました。

これから先は導入記(その 2)に続きます。

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2023/10/05

ショスタコーヴィッチの交響曲を聴いて

ショスタコーヴィッチはロシアが旧ソビエト連邦の独裁政治体制下、多くの芸術家が反体制だとして粛清された中を生き残り、15曲の交響曲をはじめ多くの楽曲を残した20世紀を代表する作曲家のひとりです。

芸術と政治とは別モノですが、時の権力者が芸術家を自らの正統性(正当性)や権威を、民衆に知らしめる為利用したことも多々あることは周知の事実です。

先の第二次世界大戦の際も多くの芸術家が時の国家体制の下、自ら生き残る為に所謂プロパガンダに協力した結果、その国家体制が崩壊した国々では旧来の体制への協力者という烙印と追放を受けました。

その後時を経て名誉回復を遂げた芸術家も居ますがそのまま消え去った芸術家も沢山居るに違いありません。

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何故こんな記事を書いているかというと、最近ショスタコーヴィッチの交響曲や室内楽曲を頻繁に耳にすることが増えたと感じているからです。

最近でも、ベルリンフィルの定期演奏会で交響曲第4番が演奏されましたし、NHK-FMではクラシック番組でショスタコーヴィッチの交響曲を含む海外オーケストラの演奏会を5回シリーズで放送しています。

それ等の演奏会は全て今年2023年に開催されたものばかりです。

 

昨年2021年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降ロシアの国家権力が批判を浴び、その体制派だと目された芸術家が数多く追放されたのを目の当たりにしました。

人々の見るロシアという国家体制は自由主義国家ではなくまるで旧ソビエト連邦時代に逆戻りしたかのような独裁国家であり、それに迎合する芸術家は追放しなければならない、というのは先の第二次世界大戦当時のことがあるからでしょう。

日本においても多くのロシア芸術家の公演がキャンセルされ、芸術家たちはウクライナ侵攻への体制批判を明らかにしない限り公の芸術表現が出来ない状況下になりました。

昨年春に実際にあったことですが、ショスタコーヴィッチの交響曲第7番レニングラードを演奏するにあたり、演奏会開始前に指揮者が聴衆に対して、昨今の世界情勢からこの曲を何故取り上げて演奏することに批判もあると思うが、数年前から演奏曲目のプログラムを組んで準備してきたオーケストラの定期演奏会シリーズであるから純粋に芸術として受け止めて欲しい、と胸の内を吐露していました。

それから1年が経ち何が変わったのでしょうか?

当時のヒステリックな反応が収まったから体制迎合でも構わない?

いやいや、そんなことはなく相変わらず追放された芸術家はそのまま復帰も叶わないままですよね?

では、何故ショスタコーヴィッチが?

交響曲第7番レニングラードだけは別扱いかも知れませんが、他の楽曲は多くのオーケストラや芸術家達が取り上げ聴衆達もその演奏に賛辞のはくしゆを惜しまない光景が日常になっています。

先の第二次世界大戦当時と違い現代の情報化社会では芸術をプロパガンダに利用する価値が薄れているからなのか?

つまり、「演奏しない」という価値が薄れていて「聴きたい」という価値が重みを増してきた結果なのか?

軽々に結論を導き出すことは出来ませんがこの先は追放された芸術家達がどうなっていくのかをしっかり見ていくことが大切ですね。

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2023/04/08

兵庫芸術文化センター(PAC)オーケストラの来シーズンチケット購入しました。

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オーディオの方はテレビパネルへの防振対策パネルカバーの結果に満足して日々音楽を聴いています。

ベルリンフィルのデジタルコンサートホールやNDRエルプフィル、フランクフルト放響などを大画面テレビで視聴する際はパネルカバーを取り外すのですが、こちらの方は視覚からの情報があるので特に不満もなく楽しめています。

オーディオで聴く音楽は地方都市に移住しても都会と遜色ない環境だと思いますが、コンサート会場で聴くオーケストラや室内楽はまた格別のライブならではの楽しみがあるので、こればかりは都会のコンサート事情には敵いません。

移住前の大阪時代から通い続けている兵庫県立芸術文化センターに所属しているPACオケの定期演奏会シーズンチケットも通い始めて10年以上が経ちます。

毎年1/3のメンバーがオーディションで入れ替わるアカデミーオーケストラなので9月の新シーズンが始まると新しいメンバーを観るのが楽しみですし、毎回違う顔ぶれで指導を兼ねて客演する指揮者やゲストトッププレーヤー達がオケのサウンドを作り上げた結果を聴くのもコンサートの大きな楽しみになっています。

本日4月8日はそんな来シーズンのシーズン9回の定期演奏会通し券の先行発売日でしたので、ネットで頑張ってチケットを確保出来ました。

A席4千円が9回同じ座席で聞いて27千円なので1回あたり3千円になるのもお得感がありますし、定期演奏会ならではのプログラム構成でなかなか演奏を聞く機会のない曲に知り合えるのも楽しみです。

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2023/02/21

ハイドン・ベートーベン・シューベルト、PACオケで聴くウィーンの息吹

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兵庫芸術文化センター管弦楽団の第139回定期演奏会は、18世紀末から19世紀初めにウィーンで活躍した3人の作曲家の作品がとりあけられました。

それは、ハイドンのコンチェルトグロッソ風のニ長調第6交響曲、ベートーベンの堂々としたハ短調第3ピアノコンチェルト、シューベルトの天国的に壮大なハ長調第8(9)交響曲という、古典派からロマン派の幕開けまでを綴る小編成から徐々に編成を拡大した変化に富むプログラムでした。

指揮者は東京交響楽団の桂冠指揮者ユベール・スダーンさん、ピアノ独奏は児玉麻里さん。

スダーンさんの指揮による東京交響楽団の演奏は東京単身赴任時代にミューザ川崎シンフォニーホールの演奏会で幾度となく聞いてました。

一方、児玉麻里さんは妹が児玉桃さんであること、夫が指揮者のケント・ナガノさんであるということを知っているだけで演奏を聞くのは初めてです。

冒頭のハイドンニ長調交響曲第6番はチェンバロが入り、逆にクラリネットと金管が含まれない極小編成で、各楽器のトップ奏者が次々と独奏の技を披露する合奏協奏曲の趣があります。

なお、ティンパニが全曲通して小ぶりのバロックタイプのが使われていたのは指揮者の意図が垣間見えます。

ハイドンの交響曲はどの曲をとっても様式が整っていて聞きやすいのですが、この第6番は様々な楽器が交互に独奏を「聞かせどころ」としているので聞いていてとても楽しい曲でした。

弦楽部の独奏はそれぞれがプロオーケストラからのゲストトッププレーヤーでしたが、木管のトップはPACオケのメンバー。

それぞれが様々な演奏経験を積んで音楽家として成長するためのプログラムの一環としてこの曲の選曲理由があると思いましたが、純粋に合奏協奏曲として聞いて楽しい選曲でした。

2曲目のベートーベンピアノ協奏曲第3番の準備のため、一旦楽員が退場した後にチェンバロを運び去りスタインウェイのコンサートグランドピアノが運び込まれました。

奏者の数も増えて金管のトランペットも入ります。

ひな壇は最後列は空けたまま、その1段手前の列に左手端からバロックティンパニ、トランペット2本、クラリネット2本、ファゴット2本、そしてホルン2本が右端に並んでいます。

ベルが後ろを向いているホルンを右端に置くとステージ後方中央の壁面で音が反射することを意図しているのでしょう。

ピアノ独奏の児玉麻里さんは長身で手足が長く、指揮者のスダーンさんより背高にみえます。

演奏も骨格がしっかりしたベートーベンの世界。

強烈なアタックも力任せな粗野な音は一切させず、まるで大理石を石鎚で撃つような硬質な輝くような響きです。

それでいて細やかなトレモロなどまるで蜂鳥が羽ばたきホバリングしているかのように軽やかに聞こえます。

合奏部分からカデンツァになると一層極まり緩急自在に勇壮な世界観を繰り広げてエンディングに向かってもなお疲れを見せないタフさを感じさせてくれました。

児玉麻里さんの演奏を今回初めて聴いたのですがとても素晴らしかったです。

鳴り止まない拍手とカーテンコールに応えてアンコールにはベートーベンの佳作「エリーゼのために」を弾いてくれました。

休憩後のシューベルト交響曲第8(9)番は「ザ・グレイト」と後に名付けられたとおり、シューベルトを代表する交響曲で、生前には何故か演奏されることもなく忘れられていた楽譜を後にシューマンが発見してメンデルスゾーンの指揮で初演されたということです。

オーケストラ編成はベートーベンのピアノ協奏曲の編成のままにトロンボーンを加えた2管編成で、ステージの最上段中央の普通ならティンパニが位置する場所にトロンボーン2本とバストロンボーンの3人が並んでいます。

これもスダーンさんの意図だと解ったのは演奏が始まって間もなく。

この曲の特徴はトロンボーン、それもバストロンボーンが重要な音やリズムを加えるようになっていますが、それを最上段中央に位置させることでより明瞭に音を響かせられるよう意図された配置なのでした。

コントラバスも最低音部でリズムを取り曲を推進させていく重要な役目を担っていることを指揮者が明確に意図し、オケに指示を与えているのが判ります。

天国的に長いと言われていますが長くて退屈なことは全くなく、逆にいつまでも続いていって欲しいと思わせるこの交響曲。

50分を少し超える演奏時間でしたが全く退屈することなく堪能することができました。

演奏が終わると万雷の拍手が送られ、満足そうにそれぞれのパートを立たせていましたが、最大の拍手がバストロンボーン奏者に送られたのがこの演奏会の成功を物語っているようでした。

この日記はPhil-M Communityでもご覧になれます。

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2023/02/18

ファウスト&メルニコフのベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ聞き比べ

先日のFM放送では昨年5月24日にドイツのシュベチンゲン音楽祭で演奏されたイザベル・ファウストとアレキサンドル…メルニコフのデュオによるベートーヴェンVnソナタ第4番ー第5番 春、第10番が放送されたので、エアチェックしました。

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ファウスト&メルニコフのデュオは以前から沢山の演奏会や録音を行っていて、このベートーヴェンVnソナタも全曲録音のアルバムを10年程前に手に入れて聞いていました。

2人ともソロでの活動で目覚ましい活躍をしていますが、ファウストさんはモダン奏法ピリオド奏法ともに卓越した演奏を聞かせてくれますし、かたやメルニコフさんも現代ピアノから歴史的フォルテピアノまで数多くのピアノを所有し楽曲にあわせて使い分け弾きこなすことでも有名。

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そんな2人が10年前に残したモダン奏法と現代ピアノでの演奏と、昨年シュベチンゲン音楽祭で披露したピリオド奏法とフォルテピアノでの演奏ではどのような違いがあるのか?

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非常に興味を持って聞き比べすることにしました。

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演奏された3曲のうち第5番 春をアルバムとエアチェック音源と比較すると、当然ながら各楽章毎の演奏時間に差が出てきていますが、曲全体を通してみると楽章毎の時間配分には大きな差異はありません。

実際に聞き比べてみてもテンポ速度感に大きな差を感じません。

いちばん大きな違いはなんといっても奏法とピアノの違いによる響きです。

ファウストさんの演奏はピリオド奏法を取り入れながらも弦と弓はモダンなもののように感じますがメルニコフさんの弾くフォルテピアノの音色は明らかに現代ピアノとは違う柔らかなものです。

ピアノの左手の響きはやや暗めの音色ですが、ベートーヴェンがこのソナタを作曲した当時に頭の中で響いていたのはこのような響きなのでしょう。

10年前の演奏と比べると先祖返りした演奏という訳でもなく、奏法と楽器を作曲当時に近づけたことでベートーヴェンが曲に込めた想いをより身近に感じよう、という積極さが感じられます。

これは、ヘ長調の春に限らず、イ短調の第4番、ト長調の第10番でも同様。

モダン楽器をピリオド奏法で弾くVnソナタをこれだけ自在に弾きこなす奏者としてファウストさん以外にはパトリシア・コパチンスカヤさん位しか思い浮かびません。

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2022/12/28

PSD社の磁気フローティングボード

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今年のお盆前にPSD社にオーダーメイドした磁気フローティングボード内蔵のオーディオラックを導入して以来、磁気フローティングボードのパイオニアメーカーであるイタリアSAP社のRelaxa2+とこのPSD社が製作した磁気フローティングボードの比較をしたことは以前日記にしました

その時の感想と考察は『音の広がりが増して発音がより明瞭になり、ともすれば混濁したように聞こえる場面もある低音域の明瞭さが際立ったようです。

もちろん、文章で書くとRlaxa2+に載せている時とは雲泥の差のように捉えられるかも知れませんが決してそうではなく、比較すればそういう印象であるということですが、この違いを聞いてしまうと元に戻すと不満が残るほどの差であることは事実です。

では同じ磁気フローティング機構なのに何がこの違いを生んでいるのでしょうか?

一つは、磁気フローティング機構を産む磁石についてはPSD社が使用している磁石がより強力なものであること。

もう一つは、ボードの材質がRelaxa2+が脚部、フローティングボード共に樹脂製なのに対して、PSD社のは鋼管フレームに固定された厚い積層合板の下部とその上に浮かぶボードも厚みのある積層合板に突板仕上げであることで、樹脂と木材という素材の差が大きいのでは?と推察しますね?』というものでした。

その後オーディオで音楽を聞く度に機器のスイッチ類を触った時に機器が揺れるのを見ていると両者の違いが見えてきました。

それは、Relaxa2+では機器の上下動の振幅が小さく揺れも直ぐに収まるのに対しPSD社製のは振幅が大きくしかも揺れの収まり方がゆっくりしているという違いです。

車に例えればRelaxa2+が普通のエアサスペンションならPSD社のはハイドロサスペンションのシトロエンのよう。

下から伝播してくる振動を柔らかくいなしてドライバーに不快な振動を与えないように機器への振動の伝播を上手く減衰させているからだと思い至りました。

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PSD社に製作をお願いした磁気フローティングボードの条件は、現在SD05を載せているRelaxa2+の置き換えとするのでサイズは投影サイズがRelaxa2+とほぼ同じ、ボード面の高さはSD05を載せた状態で最大70〜75ミリ以内とコンパクトに収めること、とやや制約の厳しいものでした。

試作検討の結果出来上がったサイズは(SD059が乗った状態で)W×D×H=480×450×85ということで、ボードのフレームに堅牢な鋼材が使用されることとフローティングボードの積層合板突板仕様も剛性を保つため厚さを削るわけにはいかないということで、高さが希望よりも5〜10ミリ高くなるということでした。

それでも、今までGRF邸の重量級真空管アンプ用に製作されたボードに比べるととてもコンパクトに出来上がっています。

ボードの高さが当初条件よりも高くなったことでSD05の背面にあるテレビ画面に干渉するのを解消するためにテレビ台の下に5.5ミリ厚合板を敷いて嵩上げしました。

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そして先日クリスマスの日に待望のPSD社製磁気フローティングボードが到着しました。

オーディオラックが木目を活かしたクリア塗装と交換フレームがブラック塗装なのにカラーコーディネートされたブラック塗装されていますが、とても似合います。

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水準器を使ってベースのフレームが水平にガタ無く設置されるように四隅にあるアジャスター付き足を調節してから上部にフローティングボードを載せ、更にSD05を載せて全てのケーブル類を取り付けた状態で水平になるようSD05のボード面に置く位置を調整します。

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Relaxa2+はオーディオラック下段のデジタルFMチューナーを載せました。

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SD05の足元がPSD社製磁気フローティングボードに変わったことで出音が想像以上に変わりました。

以前比較試聴した時はオーディオラック中段に内蔵された磁気フローティングボードだったので上段のボードに囲まれた位置だったのが、上段では周囲の影響が少ない環境になることもあるでしょう。

何が変わったのか?

それは低音部の基音が確かになり量感も格段に拡大したうえにアンビエンス成分も豊かになり音場が形成される深さが今までよりも拡大しました。

この感覚、印象はどの音源でも同様に感じることが出来ます。

今までフルレンジユニットのユニコーンでは再生が苦手だったパイプオルガンの低音も難なく再生するのに感激しています。

勿論フルオーケストラのコントラバスからエンドピンを伝わりステージを覆う低音も!

何を聴いても新鮮というクリスマスプレゼントのような音楽体験はまだまだ続いています。

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2022/09/12

YouTubeで新たなライブ音源発見(その2)

先日記事にしたYouTubeで広告に邪魔されることなく曲を通しで視聴出来るライブ音源探しですが、ミュンヘンを本拠地にするバイエルン放送交響楽団の音源を紹介するBRKlassikに、今年3月8日にミュンヘンのイザールフィルハーモニーで開催されたミュンヘンフィルハーモニーオーケストラを主体に、バイエルン放送交響楽団、バイエルン国立歌劇場管弦楽団のメンバーを加えた合同オーケストラによる、ウクライナ連帯のチャリティコンサートの一部始終が通しで配信されているのを見つけました。

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ミュンヘンフィルハーモニーはロシアによるウクライナ侵攻に対して常任指揮者だったゲルギエフが反対の意志を示さなかったことから解任した後に、このチャリティコンサートを開催したのですが、ウクライナ連帯にはバイオリニストのムター氏も積極的に関与していて、このコンサートでもベートーベンのVnコンチェルトを弾いています。

主催者によるチャリティコンサートの意義を表すスピーチも含めて2時間もの長さが有りますが、画質音質共に優秀ですし、何より歴史的なチャリティコンサートの記録としてもみて損はないと思い紹介させていただきました。

なお、BRKlassik内には、他にもバイエルン放送交響楽団の前の常任指揮者マリスヤンソンスの名演なども視聴出来ます。

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2022/07/31

ヘルベルト・ブロムシュテットさんのドキュメンタリー

今年で御年95歳になるブロムシュテットさんのドキュメンタリー「音楽が奏でられるとき 魂は揺さぶられる」をBS録画していたので視聴しました。

音楽を人生をとても自然体で語っていたのが印象的でしたね。永久保存版にしたいところですがHDD録画なのでTVが変わると見られなくなるのが残念です。

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2022/04/18

第132回PACオケ定演 オール プロコフィエフ プログラム

3回目のワクチン接種の効果があるうちにと、今年はじめてPAC定期を聴いてきました。

昨年末以降のコンサートはすべて移住のバタバタとオミクロン株の蔓延で行くのを諦めて、関西在住の友人に代わりに聴きに行って貰っていたのです。
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昨年9月にメンバーの入替があり半年が経ったPACオケのサウンドはかつてないほど分厚く重厚な響きに変化して好ましく感じました。

今まではどちらかというと管楽器パートのレベルが優っていましたが、今は弦楽器それもビオラやチェロ、コントラバスのレベルアップが目覚しく今後が楽しみです。

今回の指揮者は2024年に引退することを宣言している井上道義氏、ヴァイオリン独奏は、若くして著名なコンクールで数々の賞を取っている話題の服部百音さんで、プロコフィエフのVnコンチェルト第1番と交響曲第7番の2曲です。

今回の演奏プログラムは昨年春には予め決まっていたのですが、旧のロシア帝国時代に今のウクライナ東部で生まれた作曲家プロコフィエフの曲目だけというのは何かしら運命を感じます。

服部百音さんはとても小柄で華奢な身体ですが演奏中の表情は何かに挑むような厳しい目つきで何処かを見つめているよう。
プロコフィエフのVnコンチェルトは本人がいちばん弾いてみたかった曲だったとのことですが、フラジオレット奏法を多用した難解複雑な曲をアッサリ弾き切ったテクニカルな凄さとどこかでポキッと折れそうな危うさを見せたのです。
ところがアンコールで弾いたプロコフィエフの「3つのオレンジへの恋」からの行進曲では、行進しながら弾いたり指揮者のパントマイムに絡んだりとお茶目な面も見せたりして、流石に若くして海外の著名なコンクールに多数挑戦しただけの胆力も持っているのだと安心しました。

メインの交響曲第7番は第1番の古典交響曲に続いて有名な交響曲ですが、実演を聞くのは初めてでした。
何処かしらバレエ音楽と言われたらそうとも思えるような特徴的なリズムと緩急や明暗の唐突な切り替わり、時折効果的に使われるグロッケンシュピーゲルやシロフォンなど多数の打楽器群の響きは、誰が聞いてもコレがプロコフィエフの作品だとわかるもの。

プロコフィエフの楽曲はウクライナだとかロシアだとかの民族的アイデンティティを超えたモノに感じます。
同時代のロシアというかソビエト連邦の作曲家ショスタコーヴィッチの作風にも相互に影響受けているようにも思えたりしますが、それが20世紀の初めから激動の時代に生きた作曲家の世界観かもしれません。

ここで驚いたのはPACオケのサウンドがとても分厚く重厚に変化していたことです。
特に骨格を成す低弦楽器群の充実した響きが底辺を支えているのでメロディ楽器や打楽器が散りばめる音がとても光り輝いてるように感じました。

アンコールではプロコフィエフの交響曲第1番から第3第4楽章が演奏されて、2時間に渡るコンサートがお開きになりました。

アカデミーオーケストラとしてロシア出身のメンバーも居るので苦労もしているのでしょうが、オケのメンバーが一体となった演奏を通じて会場内を一体感で満たしてくれる音楽の強さを感じたひとときでした。

コンサートの後は久しぶりに梅田に出て友人と会食のひととき。
90分制限で追い出されるので結局2軒梯子してしまいました。

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